2025.11.13
本研究ではスケートボードに似たキャスターボードに初めて乗れるようになる過程を分析し,最初に試した乗り方によって,その後の練習過程が異なることを明らかにしました.
キャスターボードは,連結した二枚の板にそれぞれ車輪が1個ずつ備えているスケートボードで,倒れないようにバランスを取りながらも,二枚の板に交互に力を加えることで前進する乗りものです.そのため,自転車と同じように,止まったままではすぐに倒れてしまうので,少し勢いをつけてからキャスターボードの上に立ち,両足で交互に力を加えながら進む必要があります.
キャスターボードに初めて乗る7人の大学生を対象に,その学習過程で,何秒乗れたかということとともに,肩の回旋角度変化と前進する速度を毎回測定しました(図1参照).その結果,早い人では8回目で1周15メートルの円形コースを2周することができました。他方,2周するのに135回も練習にかかった人もいました(図2参照).乗り方を大きく分けると,最初に勢いをつけて初速を上げてそのまま進もうとする人(勢い型)と,肩を回すことによって歩くように足でボードに力を伝えようとする人(捻転型)がいました.結果的には,肩を回して進もうとする捻転型の人の方が早く乗れるようになり,最初の勢いだけで進もうとする勢い型の人は時間がかかっていました.

図1 実験設定を上から見たもの(a)と身体の計測点(b),肩の向きの定義(c).

図2 7名の参加者の試行数(横軸)と走行距離(縦軸)を表したもの.学習基準(2周約20m)を早く達成した順に並べてあります.
そして興味深いことに,最初に選択したからだの使い方・乗り方(方略)が,練習を通じても変わらない場合が多いという結果でした(図3参照).これは運動の学習においては,「最初の一歩」が重要で,学習者が最初に選択する方略によって学習の速さが異なる可能性を示しています.しかしながら,この最初に選択する方略がどのように選ばれるのかはまだ分かっていません.

図3 7名の参加者のボードの初速と肩の回旋角度の関係を1回目と最終回の試行で表したもの.上段が比較的早く学習した人たちで,下段が学習に比較的時間を要した人たち.対角線よりも上は肩の回旋が初速よりも大きいこと,下は初速の方が肩の回旋よりも大きいことを示します.
【論文情報】 Suzuki, H., Hirakawa, T., & Yamamoto, Y. (2025) Factors influencing caster board skill acquisition, Frontier in Psychology: Movement Science, https://doi.org/10.3389/fpsyg.2025.1643100.
このように,身体の動きと心の学びの関係を科学的に探ることができるのが,心理健康学科の魅力です.
ぜひみなさんも心理健康学科で,心と身体の関係に迫った最先端の研究に触れてください。