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2023.06.28

集中力とは?

よく集中力があるとかないとか言われますね。では集中力とは何でしょうか。
実は心理学では、「集中力」というのは専門用語としてはありません。専門用語としてあるのは注意です。
例えば、カクテルパーティ効果という言葉を聞いたことがあるでしょうか。これは、カクテルパーティのようなザワザワしたところでも、自分の名前がどこかで話題になっているのがいったん耳に入ると、周りのザワツキには関係なく、その会話の内容が聞こえるというものです。

Broadbentが1958年に提案したのが、フィルターモデルと呼ばれるものです。
下の図はその概略を示したものですが、矢印は情報の流れを示しています。感覚器官、例えば上の例では聴覚(耳)からは多くの情報が絶えず入っています。その情報が短期貯蔵を通り、選択フィルタで、まるでコーヒーフィルターを通して行くように、限られた情報だけが通っていくのです。そのフィルタに影響を及ぼすのが貯蔵されている過去事象の条件付き確率です。つまり、自分の名前は高い確率で貯えられているため、自分の名前が呼ばれるとそのフィルタが働くことになります。そもそもこのフィルタは、注意には容量の限界があると考えられたからです。つまり、聞きたいことだけを選択的に聞くことができるというのが、カクテルパーティ効果で、選択的注意と呼ばれます。

フィルターモデル

Broadbent (1958) Perception and Communication より


また、この注意を有限な資源ととらえ、覚醒(緊張具合と考えてもいいでしょう)によっても注意の配分に影響を与え、行動にも影響するとしたのが、Kahneman (1973) の注意配分理論です。下の図のように、覚醒によって注意の使用可能な容量が変化し、どこへ注意を向けるかという配分方針に影響を及ぼすことによって、可能な活動の中でいずれかの活動が決まるというものです。

注意の配分理論
Kahneman (1973) Attention and Effort より

 

では、こうした注意の考え方をもとに、スポーツの試合や、ゼミでのプレゼンテーション、試験の時など、緊張する時にはどうすれば「集中力」を高めることができるでしょうか。緊張の程度と出来ばえには逆U字の関係があるといわれています。下の左の図を見てください。
横軸の「覚醒」は緊張の程度と思ってください。縦軸が出来ばえです。ちょうどUの字を上下ひっくり返したような形になっていますね。それで逆U字の関係と呼んでいます。要は、緊張しすぎても、緊張が足らなくても出来ばえはよくなく、ちょうどよい緊張の程度があるということを示しています。
ただ、スポーツの場合などでは、種目の特性によってちょうどよい緊張状態は異なってきます。ゴルフやアーチェリーなどの標的競技では緊張状態はほかの競技に比べると低い方が良いとされています。逆に、ラグビーやバスケットボールなどのような身体接触を伴う侵入型対人集団競技では緊張の程度が高いというか、熱く燃えているような状態の方が良いとされています。

では、なぜそうなるのかを注意の観点から考えていきましょう。Kahnemanの理論のように、覚醒水準が高くなるにつれて利用できる注意の容量が少なくなると考えられています。これを「注意の幅」と考えると、右の図のように、覚醒水準が高くになるにつれて、「注意の幅」が狭くなっています。そうすると、覚醒水準が低い状態、つまり緊張が足りない状態では課題に無関連な情報まで注意が配分され、課題に重要な情報と相殺(そうさい)されてしまいます。例えば、ボーとしていて、信号を渡ろうとしているのに、関係のないショーウインドウに見とれ、渡りそこねてしまうような状態です。
他方、覚醒水準が高くなる、つまり緊張しすぎると課題に重要な情報までも見落としてしまい、うまくいかないということです。例えば、野球のピッチャーが緊張しすぎて、ランナーがいることやアウトカウントまでもわからなくなってしまうような状態です。
したがって、適度の緊張状態で、課題に重要な情報だけを取り込むような状況になれば、最も良い出来ばえになると考えられます。これを注意の狭小化現象と呼びます。

緊張と出来ばえの逆U字関係と注意の狭小化


ただ、もう一つ重要なのは、「注意の方向」です。一番左はボーとして、覚醒水準が低く、注意の幅が広すぎる状態です。舞台の照明と同じで、広い範囲を照らそうとすれば全体に暗くなり、よく見えなくなります。それで注意の幅を調整して、真ん中の図のように見たいところだけに照明を当てるようにすれば、きれいにくっきり見えるようになります。ただし、同じ注意の幅でも、右の図のように照らす場所が悪いと見たいものも見えません。これが「注意の方向」です。したがって、意識的に、「注意の幅」と「注意の方向」を、スポットライトをうまく照らすように使うことが、いわゆる集中力を高めることになります。

スポットライトアナロジー


最後に、「集中力がない」と言われる人でも、好きなこと、例えばゲームならば何時間でも続けていることができる人がいますね。でも「集中力がない」と言われるのは、机の前に座り、勉強しているときではないでしょうか。要は、集中力がある/ないというのは、同じ人でも状況によって違ってくるのです。誰でも、好きなことをやっているときには「集中力がある」はずです。ということは、どれだけやろうとしていることを好きになれるかということで、集中力は変わってくるはずですね。
好きこそものの上手なれ」とはよく言ったものです。

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